□月 ●日  No1245 天人は食わねど高楊枝


天界に物資を運ぶ。
といっても、ちょっとした郵便物を代わりに運ぶ程度で大した物ではない。
屋敷は綺麗であるが、その暮らしは質素そのものだ。
食生活も地上と比較すれば遙かにバリエーションが少ない。
よく月の都と比較される天界だが、物資にあふれている月の都と比較すると
天人の暮らしはまさに武士は食わねど高楊枝な世界である。


個人的にはよくこんなところで暮らせるなと思う。
比那名居の娘がここの生活が嫌で、どうにかして地上で遊ぶために博麗神社を潰したのは記憶に新しい。
だが、ここの生活を目撃すれば比那名居の娘の意見は至極もっともに見える。
普通の人間はとてもではないがここでは暮らせない。
比那名居の娘と言えばタフなことで知られており、一説にはマゾではないかという意見も散見されるが
それは彼女のことをきちんと理解していないだけであるようだ。


天人は孤高の人であることが求められる。
月人とは根本的に違う。月人は賢い地上の民と会っても、賢いシロアリと会話している程度にしか
思っていない。すなわち次元が違う存在と思っているのに対して、天人はあくまで相手を人として
尊重することができる。


隙間妖怪は、比那名居の娘が贅沢暮らしをしていると言っている。
確かに八雲商事の力を借りなくても食うに困らず生活できるわけだから、
これはかなりの贅沢で恵まれた暮らしをしていると言えるだろう。
だが、客観的に言えばかなり退屈な暮らしであることは間違いない。
顕界に比べればずっと慎ましく暮らしているのが天界なのだ。


ボスから聞いたのだが、比那名居の娘が幻想郷の宴会に参加できなかったのは
参加したら最後、天人達のコミュニティに復帰できなくなる恐れがあるためと言う。
緋想の剣が持ち出されたのも実はすぐに発覚していたことが分かっている。
場合によってはそれを口実に比那名居の娘を天界から追い出すことも吝かではなかったというわけだ。


あそこで、天人と妖怪が相容れないと言うことにしなければ、彼女は
天界のでの暮らしが出来なくなってしまうだろう。
彼らには彼らの事情があることを理解した上で彼女を理解する必要があると思う。