久しぶりに会った放蕩妖怪から大師様が危険だと警告される。
そんなことは重々承知している。仕事だから仕方ないのだ。
関わらなくて良いと言われたら、地の果てまで逃げると答えておいた。
そんな受け答えをしたら、よく正気のままでいられると感心された。
私が、大師様のような人間に対抗できるのは知識があるからである。
どのような方法で人の心につけいるのか、手口を先にレクチャーされていたからこそ
自分を見失わないで済んでいる。
彼女にその辺の話をしたところ「私もその当時にそれだけの知識があったら
心を読み続けていただろう」と言っていた。
放蕩妖怪に言わせれば、一般に心を読むことができる人種にとって多少の腹黒さや
下ネタの類は殆ど動じないものだそうだ。
中には本当に危ない思想を持っている者もいるのだが、そういう人間も少なからずいるので
最初は恐怖を感じても直になれるというのである。
しかし、そんな人種であっても恐怖を感じる者があるという。
当てててみろと言うから、答えることにした。
答えはこうだ。「心がない」存在である。
厳しすぎる修行などの成果、信仰の対象に完全に帰依し心を失っていたり
自我が見えなくなっている者がいる。
目をむいて放蕩妖怪が驚いているところを見ると正解なのだろう。
なるほど放蕩妖怪が言いたいことはよく分かった。 大師様は放蕩妖怪にとって天敵なのだ。
おそらくは大師様に帰依した信者達の心を見てしまったのだろう。
そんなことを話したら、「惜しい90点」と言われてしまった。
正解は、妖怪の味方だと分かったときの信徒達の心の中だそうだ。
それは確かに危ない。
真っ白なものが真っ黒になる恐怖は確かに計り知れない。
もし仮に姉が同じものを見たら同様の反応をしただろうと思われる。
二人の命運を分けたのはそんなところなのかもしれない。
放蕩妖怪から大師様は学習したのかと尋ねられた。
とりあえず学習したと言うよりは環境が変わったとだけ答えておいた。