□月 ●日  No1326 月人の出産


月の都が久しぶりに大騒ぎになってると思ったら、月の民の一人が出産するというお話。
別に特別でもないと思うだろうが、薬漬けで寿命を延ばしている彼らにとっては
出産は一大事だったりする。 
帝王切開は当たり前、母胎が危険になることもしばしばとか、聞いていると大変すぎるし
相当の覚悟が居る。
よく神話で出産がなかなか上手くいかないような話が書かれるがそれもむべなるかなと
言ったところである。
何でも数十年来の大事件だとのこと。


綿月姉妹の姉のほうから、出産の立ち会いと支援要請が来たときは皆目を白黒していた。
そんなの医療が進歩したお前らでやれよという意見があちこちから漏れた。
月側としては要は出産に関する穢れをこっちで被れって言いたいらしい。
なんて身勝手な要求だとみんなで思った。
もっともこちらとしては、その程度のことで月人に恩を売れるということで断る理由もないし
月人の身体についてこれ以上ないサンプルとなり得るので二つ返事で了承した次第。


それで大急ぎで出産に関する資料を送ってもらい、それを元にお産に関する支援システムを
プログラムしたルーコト数機を送り込むことになった。
ルーコトには地球にいる産婦人科スタッフと接続するようになっている。 
最近流行の遠隔医療と言う奴だ。


すでに顕界でも一部の手術は医者の遠隔操作により機械で行う時代がきているらしい。
恐ろしい話である。便利なのだろうが機械が治療するのは気分的にいただけないと思うのは
私が古い人間だからであろうか。


そして今回はルーコトでそれを実現している。 
本部にいる産婦人科の先生が手袋をもって帝王切開などに当たる仕組みとなっている。
触覚もある程度わかるという話だそうで、今の遠隔治療は流石と言うしかない。
さらにルーコト相手だから月の民としても穢れを気にしなくて済む。


一歩間違えれば外交問題になるのでライブ映像を会社の面子みんなで見たのだが
月人の出産についての考え方はちょっと人間離れしすぎていると思う。
旦那が出産に立ち会うのも珍しくない顕界と比較すると、つくづく月人じゃなくて良かったと思う。


出産に関しては、うちのスタッフの方がずっと経験豊かだった。
現地の医者はおろおろしており、こちらが送ったルーコトが的確に周囲に指示を出している有様である。
あいつら年齢は我々の倍オーバーは行ってるはずなのに
産の忌みということで避けている連中ばかりだったというわけだ。
本当に使えないので彼らには応援に回って貰う。 
最初はもしものことがあったら破壊するぞと脅していた月人だったが、こちらが修羅場になっているのを
察すると、空気を読んでかルーコトから離れていった。
朝倉が単に穢れを避けているだけと言っていたが。


生まれてきた子供は酷い未熟児だったが、先読みして用意した医療器具が功を奏した。
そこから先は小児科医の出番である。殆ど顕界の小児科現場と変わらない風景になる。
さらにルーコト二機を追加し24時間看護モードにする。
そんなこともあってか、出産スタッフが遠隔操作するルーコトに月人総出で頭を下げる場面が
そこかしこで見られた。
記念碑を作るとか、銅像を造るとか言われたが、丁重にお断りすることにした。


色々な意味で興味深い出来事である。
看護スタッフは大変だけどね。