□月 ●日  No1408 俺俺詐欺

うちの社長が今迄で見たことないくらいとても機嫌が悪い。
なんでも例の電話詐欺に遭いかけたらしい。 もちろん通用するわけがないのだが
問題はもっと別の部分にある。


常識的に考えればうちの社長はうら若き女性の姿をしているものの、年齢は
一応妙齢ってことになっている。妖怪なんだから仕方ない。
常識にとらわれてる一般の詐欺師さんは当然のごとく社会的に正しい方向性で
社長に接触したわけだ。 
真におろかな話なのだが仕方ない部分でもある。


うちのボスの目の前に社長が置いたボイスレコーダーの音声が再生される。
「おばあちゃん、俺だよ俺」
いや、この詐欺師を責めてはならない。 詐欺行為は棚上げしてもこれは仕方がないことなんだ。
うちの社員の数人が笑いを堪えている様子が手をとるように分かる。
そいつを睨み付けると一気に場の緊張が加速する。


社長の命令はこうだ。手段を選ばなくてよいので、この詐欺師を特定しろという。
あの詐欺師終わったなとか、まだ閻魔様に地獄行きと言われたほうがマシだとか、
散々な会話が繰り広げられる。 とりあえずこの詐欺師に死亡フラグが立った。


早速、通話記録が調べ上げられる。電話局に手を回しあっという間に掛けた電話番号を特定。
それが盗まれたものであると分かると、どこから掛けたのかを調べられる。
まるでどこかの諜報員のような動き方である。 
銀行口座が調べられ、ここ半年の金の流れまで追跡される。


甘やかすと付け上がるということでちょっと脅かすことで決定。
こっちは忙しいのに付き合うほうはたまったものではない。
そういう恨みは全部犯人にぶつけてよいそうだ。 ここまでくると相手に心から同情する。


そして、奴から電話がかかってきた。
朝倉が社長の声色を真似している間に、社長自らが襲撃をするという。
社用の居場所はGPSで即座に調べられ、すぐに衛星などを通して居場所が
あちこちにウォッチされる。
私も事の成り行きをモニター越しに見ていたが、誰が見てもやばそうな掃除屋が
あたりをうろうろしているのに気づいていない。


誰がも幻想郷送りになるのだと思っていた次の瞬間、ボス宛にホットライン通話。
霊能局の局長だった。 警察に引き渡せという内容。
さすが早耳だなと感心したが、これだけ派手に調べていれば当然かもしれない。
社長の返答は素早かった。


「もうやってる」


詐欺師は現行犯で逮捕された。 本人は何が起こったのかわからなかっただろう。
気がついたら警察の前で電話していたのだ。
妖怪の力の濫用にもほどがあるがうちの社長を怒らせたら命がないってことだけは分かった
一幕だった。