□月 ●日  No1473 重陽の節句


重陽節句、永遠亭でこの行事をやっていると知ったときは何とも皮肉な行事だと思った物である。
元から長命なのに長命を願うというパラドックスが何とも面白い。
何故か明羅女史が永遠亭にお酒を取りに来ている。 阿礼乙女の長命祈願の為でこちらは結構
差し迫った問題でもある。 いっそ蓬莱の薬でも製造して服用させた方が良いのではないかと
言ったら、みぞおちに掌低を喰らってしばらく悶える。


考えてみると彼女もまた記憶を維持した状態でぐるぐると輪廻転生しているので実質
蓬莱の薬を服用しているのとあまり代わらない。 ただ体調を維持できるという点で
私はかなり有効だと思うのだが、その辺を言うと今度は閻魔様にお仕置きされそうだからやめておく。


お酒を狙うのは明羅女史だけではない。月兎に混じって妖精もお酒を貰いに来る。
この日やってきたのは氷妖精。 お酒冷却のために薬屋が雇ったらしい。
しかも報酬はお酒。 どう見ても騙されているとしか思えない。


さらに自然の循環のためとはいえ短命な妖精が長寿を騙るお酒を呑むとはこれまた皮肉な話だ。
更に言えば、妖精としてはイレギュラーとも言える力を持つ氷妖精だからこそ
赦されたことなのかも知れない。


仕事のついでと言うことで私もお酒を振る舞われたのだが思わず躊躇ってしまった。
ここにいると、思わず生きているのか死んでいるのかよく分からなくなるときがある。
そんな時長命を願うというのは一体どういう事なのか自分でもよく分からなかったからだ。
決して薬が入ってるかもと疑ったわけではないが、あっちはそれを疑っていたようだ。


なんとかここから脱出しようとして適当に理由を付けてお暇しようとしようとしたら
氷妖精に帰り道を塞がれた。 よりによって一番加減が効かない相手である。
脱出を諦めてげんなりしているところに、無理矢理呑まされてしまった。


戻って取りあえず血液検査を受ける。疑っているどうかの問題ではなくそういう決まりだから仕方ない。
お酒が入ったせいで頭が痛く、朝倉に一体何が起こったのかと説明を求められたが
内容を聞いて取りあえず理解して貰った。 助かった。
一応中身はシロとのこと。何かしら薬を盛られて変な能力でも手に入ったらどうしようと思ったが
杞憂だったようである。


そうすると急に折角の好意を無碍に断ったのが悪い気がして、菓子折を一個用意することにした。
結局ポケットマネーで買ってしまったので無駄に高く付いた。
人の好意は素直に受け取りましょうって話だ。