□月 ●日  No1545 人の経歴はわからない


出社途中、通りかかる学校があるのだがその学校が何故かテープで厳重に閉鎖されていた。
何か事件でもあったのかと思いながら通り過ぎようとすると何処かで見たことのある人に出くわす。
櫻崎と、妖怪油すましことソーレンのコンビだ。
学校の壁を壮大に破壊してのお出ましであった。


壁を破壊したのは図体だけは頑丈なソーレンとは言え、なにか校内で大変なことが起こっているのは
間違いない。 何事だと櫻崎に尋ねたら、アホな学生が変なおまじないをしてしまって
変なものが呼び出されたという。
所謂逆幻想入りという現象ではないかと思われる。


こういう場合は幻想郷流に弾幕戦となるのだろうが、素直に戦車でもミサイルでも用意しろと
言っても、ここでは持ててもせいぜい軽火器という有様なのが情けない。
少し見えるは巨大な泥人形。 結構な寸法で確かに強そうな気がする。
額に魔法の文字が書いてあるのでそこを攻撃すれば良いと素人目には思う。
櫻崎からあまりに冷静すぎると言われたが、多分自分が麻痺しているからだと思う。
もちろん三十六計逃げるにしかずなのは間違いない。


朝倉でも呼べば万事解決なのではと言ったら
彼女がやってきたら状況はもっと悪化するし、破壊活動を平気でするので被害額が増えると言われた。
悲しいくらい反論できない。
しかし、このまま放置しても問題は酷くなる一方だ。 こういう時に限って魂魄が電話に出ない。


最後の手段を用いるしかないかと頭の中で思い浮かんだそのとき、がれきだらけの道を何食わぬ顔で
歩く男一人。 経理部にいた東村とかいう男である。
事情を話すと「ざまぁ」と言われた。 この発言に三人で絶句する。
我々に頼まず自前でどうにかしようとしたからだと東村は続けた。


東村は道ばたで落ちている石ころを手にとって、ポンと泥人形に投げつける。
文字が一文字消えて泥人形はそのままただの泥に成り下がった。
あまりといえばあまりの展開で皆で絶句する。


本人曰く、有名な泥人形EMETHとかいう代物だそうで、頭文字のEを何かで消すだけで
破壊されるらしい。 しかし強力な攻撃を加えると相手にガードされるため、適当な
石つぶてで文字を消したというのだが、この東村とか言う男ただ者ではない。


やがて事後処理のために小兎姫がやってきた。東村は会社が遅れるではないかと怒っているが
そういう問題じゃないと思う。だが小兎姫から出た言葉はもっと意外なものだった。
「先生」とたしかに彼女は言ったのである。
もう絶句するしかなかった。