○月 □日  No264 裏腹の世界


霧雨店で鍬を見かける。幻想郷の農機具に目を向けてみると、
未だに千歯こきや唐箕(とうみ)がある。
我々の正体を知る香霖が私に、外の世界の農機具はどんなものなんだと
聞かれたことがあった。
我々がいつもさまざまな物資を持ってくるので疑問に思っていたのだろう。
コンバインや脱穀機といった文明の利器が、彼らにとっては妖怪変化のように
映るのが興味深い。


考えてみれば香霖も妖怪である。つい忘れがちだが私よりもずっとずっと年上なのだ。
彼らにとって我々は妖怪だそうである。妖怪の妖怪というのも変な話だが
月人だって妖怪扱いされているところだから何があっても不思議ではあるまい。


妖怪のことを得体の知れないものと定義するとならば
経済も妖怪だし、農耕を支える大地の恵みももしかして妖怪の一つなのかもしれない。
そして世間もまた妖怪なのだろう。 幻想郷では人間が妖怪に捕食されるが
結界の外では人間が世間に捕食される。


色即是空 空即是色とはよくいったものだ。
結界の外も中も裏腹で実は基本的概念は殆ど変わっていない。
案外幻想郷というものは特別な存在ではないのかもしれない。