○月 △日  No364 たくましく育ってください


ヴィヴィットを連れてはじめての納品。
香霖堂で雑談をしていると涙目の鴉天狗らしき人物が乱入してきた。
「らしき」と書いたのは、彼女が普段かぶっている山伏帽子ではなく
髪の毛がきれいに収まるような深い帽子をかぶっていたからだ。


いったい何があったのかと聞いたら、どうやら、仲間の天狗に髪の毛を
短く切られてしまったらしい。
妖怪といえど女の子、当然髪型には気を遣うのは当たり前ということだ。


香霖は倉庫からちょうどいいかつらを見つけ出してきた。
とりあえず試着してみたら、髪の毛がちょっと長すぎるようである。
するとヴィヴィットが「私が散髪します」と言って目にもとまらぬ早さで
散髪をしてしまったではないか。


散髪が終わって鏡を見た鴉天狗は大喜び。
会釈をして帰ろうとふと後ろを振り返ると
髪の毛が伸びた。天狗はありえない高音域でぴーぴー鳴いた。
夜雀より始末が悪い。 しかもかつらはとれなくなっている。


もしやと思い床に落ちた髪の毛を注意深くみると、
うちの会社の識別タグが落ちている。
そこには「危険、装着不可」と書いてあった。
とりあえず香霖を草履で殴った。


ところがヴィヴィットはその伸びた髪の毛を猛然と散髪しだした。
散髪しては伸び、そして散髪しては伸びるを繰り返す。
私は落ちた髪の毛をひたすら掃除するのに追われた。
ヴィヴィットは疲れを知らない。そんな戦いが小一時間続いた。
髪の毛が伸びるのがぴたりとやんだ。


鴉天狗は疲れた表情でぐったりしている。 かつらを覗き込むと
どこが声帯かわからないがかつらが叫んだ。


「ハッスルターイム」


髪の毛が数倍の速度で伸び始めた。
埒があかないので現状を香霖に任せ次の配達場所にむかった。


夜もどってみるとヴィヴィットは友達ができたと騒いでいた。
よくわからないがかつらと友情が芽生えたらしい。
目に隈ができた鴉天狗がとぼとぼと家路に向かっていった。
髪型は元に戻っていた。
店内は髪の毛で埋まっていた。
ヴィヴィットは幻想郷でもまったく問題なく生きていられると報告書に
書いておいた。