■月 ○日  No406 技術へ殉じたひとたちへ


河童たちが炊飯器の前で黙祷を捧げている。
彼女たちにとって炊飯器はとても大切な道具である。
カッパ巻きを作るには、なによりおいしい白米のご飯が必要なのだ。
この白米のご飯がくせ者である。


幻想郷の食べ物の多くが粥やおじやになっているのは
白米を炊くためにとてつもなく手間がかかるからだ。
炊事に追われる主婦の手は20歳になればぼろぼろになっていた。
電気炊飯器が我々の世界で生まれたとき、主婦の時間は三時間も
節約され、睡眠時間が平均1時間増えたといわれる。
霧雨のご息女も、博麗の巫女も手が極端に荒れていないが
それはやはり粥が中心の食事だからだろう。


河童たちが炊飯器の前で黙祷を捧げる理由がどうしても
理解できなかったので、集団の中にいた河城河童にその理由を尋ねてみた。
すると、河童たちには技術に殉じた者を同じ技術者として祀るという
風習があると聞いた。


炊飯器の開発にはある主婦の犠牲があった。 病を押して、世の中の
役に立ちたいという執念が、当時どこの一流企業にも成し得なかった
全自動炊飯器の開発を成功させたと言う。
だがそれは幻想郷の外の世界の出来事である。


幻想郷の外の世界が河童たちに分かるのかと聞くと
河童たちも物に込められた想いや謂われは読み取ることができるという。
以前、豊穣のカミが見せた作物に対する念みたいなものだろう。
八百万のカミでなくてもそのような「念」を読み取ることができる
という事実はちょっとした発見だった。


会社に帰ってこの話を知り合いの電機関係開発の人に話していいかと
朝倉に聞いたら、やんわりと「おやめなさい」と言われてしまった。
何となくもったいない気分になった。