△月 □日  No469 幻想の世界における痴呆症


いつものように仕事をしていたら、鴉天狗に呼び止められた。
なんでもある男が私と鴉天狗に謝りたいという。
今一釈然としないまま本人と会ってみてようやく思い出した。


その人物とは、つい半年くらい前に鴉天狗に投石していた男であった。
鴉天狗が持つ写真機で母親の魂が抜かれてしまったというのが言い分だった。
もちろん鴉天狗がそんなことをするわけがない。


仕方がないのでその魂を抜かれた人に会ってみる
するとその女性は鏡の前で映った自分の姿を相手に話をしていた。
いわゆる痴呆症の症状である。
結界の外であっても痴呆症に関する知識が充実しだしたのはつい最近のことだ。
その男が原因を妖怪に求めるのは無理もない話である。
何故鴉天狗だと思ったのかと聞いたら、紅魔館のメイド長が天狗のキャメラ
人の魂を吸うと言っていたらしい。鴉天狗もよく怒らなかったと思う。
ネタを掴んだのか猛然とペンを走らせていたから記事に夢中だったのかも知れない。


お茶を飲ませて少し落ち着いたところで、その母親が病気であることを説明する。
心が侵される病気という概念は幻想の世界の住人にはにわかに信じられない話らしい。
説明したのはいいのだが、解決方法を聞かれてしどろもどろになってしまった。 
結局、専門家の明羅女史に智恵を借りることにした。


すると明羅女史は何を考えたのか寺子屋から子供が使う読み書きや計算の本を
借りてきてそれをやらせるように言ってきた。
幻想郷の外の世界では最先端の治療方法のひとつ「学習療法」と言うらしい。
男も効果があるのかと首を傾げていたが、それは私も同じである。


そんな男から聞かされたことは、母親が快方に向かっているという報告だった。
お礼がしたいと言われたが、とりあえず上白沢に教材費を払うように促した。
鴉天狗は何故か手帳を懐から取り出すとその1ページを破って捨ててしまった。


嬉しくなって明羅女史に報告したら、この学習療法の成功率は5割くらいだったらしい。
薬物療法も有効なのだが、そこは男の献身的な介護でカバーできたのだろうと
いうことだ。 とりあえずハッピーエンドである。


あとで鴉天狗のメモを拾ってみたら延々と小さな字でメイド長の名前が書き連ねてあった。
見なかったことにした。