□月 ★日  No600 幻想郷における物資自給率と腋のはなし


自称現人神から巫女服が破けたので代わりをくれと言うので、自分で修理しろと答えたら怒り出してしまった。
紅魔館でさえ、あれだけの裕福な暮らしをしていながら衣服は常に補修したり、同じ衣服をいくつも持って
補修しやすくしたりと様々な工夫をしている。
とりあえず裁縫セットをポケットマネーで買ってあげて、自称現人神に手渡して後
例の神社のおねえさんが教えることになった。


ある程度高度な魔法を用いれば、衣服を補修することもできるらしいが
衣服を着せる魔法が転送魔術の応用であるのと違い、衣服の修理には衣服の正確な構造を
魔法の中に組み込まないとならず、仕上がりはよくても便利さからはほど遠いのだ。


幻想郷は常に物資不足である。 阿礼乙女が紅茶を飲もうとしてもティーポットを用意できない有様である。
これは我々がいつも物資を運んでも同様のことが言える。
幻想郷における物資の自給率はおそらく半分も満たないだろう。
これは幻想郷が自立できていないからと考える者もいるかもしれない。
しかし我々のいる世界でさえ、豊かな暮らしを得るために他国からの物資に依存しているのである。
別に幻想郷だからどうこうではない。


今日、運んだものは中国からやってきた粘土である。 白磁の材料となるもので、幻想郷はおろか我が国でも
入手することはできない。 通常白さを出すためには、釉薬の顔料で再現するのだが、この白い粘土を使えば
もっと透き通った白を作ることができる。
さらに後部には釉薬の材料が乗っている。 これも複数の材料をブレンドしたものだ。
ひとつひとつを追いかければ、幻想郷がどうしても物資を完全に自給できる体制にないことはすぐにわかるだろう。


ただ衣服については、補修を重ねた結果、衣服そのもののがもつ霊的防御能力を損なう可能性があるので注意しないと
いけないだろう。 
今回のケースも、朝倉に問い合わせてちょっと後ろに当て布をすれば問題のないことだったので、
自称現人神には幻想郷の現状を学んでもらう意味合いもかねて我慢してもらうことにした。


様子を見に例の神社に立ち寄ったら、巫女服の腋の部分に当て布をしようとしているのを見て全力で止める。
そもそも腋の部分を見えるようにしているのも、儀式で両腕を激しく動かすことが多い巫女様にとって
衣服がすり切れてしまうことを防ぐための措置だったりする。
巫女服はただでさえでも周囲からの力にさらされ続けている。 摩耗によって衣服が破けてしまったら
それが原因で致命傷にもなりかねない。


さすがに原型がなくなってきたので仕方なしに新しい衣服を用意した。
自称現人神は最初から用意すればよかったのに不満顔だった。
ちょっと腹が立ったので、約一時間にわたり幻想郷の現状についていろいろと話してみせたら
最初からそう説明しないのが悪いとおねえさんに諭されてしまった。
それも一理あるのでとりあえず引くことにした。