□月 □日  No645 有限責任と無限責任


今年も新しい社員が続々入ってきて賑やかになっているうちの職場。
この時期になると朝倉が新入社員に、「いざとなったら私の名前を出していい」という光景を目にする。
私も同じ事を言われた。 まさかそれが水戸黄門の印籠なみの効力があろうとは当時の私も
新入社員も考えていないだろう。


人間誰しもミスをするものだ。
だが相手が妖怪だけにそのペナルティは計り知れないものとなる。
こういうとき、会社のありがたみを感じる。最悪朝倉の名前を出すと逆に労われる。
なぜか同情のニュアンスも含んでいるように感じるのだがきっと気のせいに違いない。
とにかく、五体満足で仕事を遂行できるのも結局は自分が守られているからだと思っている。


かつて幻想郷に物資を運ぶときは”お供え物として”送っていたという。
しかしお供え物には細かなルールがあり、万が一大きなミスをすれば命を落とすことにもなった。
幻想郷に物資を運ぶ団体を作ったとき会社組織にしたのも、すべては責任を有限にするためだと
玄爺から聞いたことがある。


もちろん人間の中には個人的に妖怪と取引をする者もいる。
我々が介在しない闇取引というやつで、我々が規制している様々な物品を横流ししているらしい。
しかしながら彼らはすべての責任を自分で持っている。
ところが幻想郷にもアホが居て苦労して横流しした商品を転売しようとする奴が居る。
こういう奴らはよくて里香女史の取り締まりに引っかかるが、
最悪闇取引した者も特定されて皆あの世送りにさせられるのである。
闇取引する人間はお客の責任まで自分で背負わないといけないわけだ。


小兎姫が禁止物品を取り締まってきたと、物品のリストと犯人の情報を送ってきた。
犯人は即座に逮捕されて、そのまま拘束されているらしい。
その物品とはなんとマットであった。 その中に禁止薬物が入っていて、妖怪の一人が
中毒症状を起こしたらしい。
買った本人も顕界に住んでいたときに使っていた便利な商品という認識で買ったのだろうが
その便利さを他人に教えようとして足がついた。
こういう話はとてもやるせなくなる。


朝倉はリスクに無自覚なのだろうと笑っていた。
うちの会社と過去に取引実績があったため、取引の停止と口座の閉鎖を書いた通達が流された。
幻想郷といえど個人で無計画に妖怪と商売するのはあまりに危険すぎる行為と言えるだろう。