□月 ●日  No2123 病原性大腸菌


月面に仕事に行くときは一応、いろいろな検査をさせられる。
その中でも面倒なのが、便の検査でありまして、気分的にいいものではない。
しかし、これは絶対必要なことである。 それには以下の事情があるからだ。


幻想郷で生肉を食うのはいろいろな意味で危ないことは常識中の常識である。
必ず火を通すのはもちろんのこと、少し焦げるくらいに通さないと色々まずい。
しかし、妖怪たちの多くは肉を生で食っている。もっとも死にたてほやほやじゃなければ
そんなことはしないわけなのだが。


薬屋に言わせると、人間は自分で病気を生み出していることに無自覚であるという。
月面人が人類と隔離していたのも実のところそこにある。
たとえば弱毒性大腸菌が病原性大腸菌になってしまったなんてことがある。
人間が合成したというと科学の力で作った兵器のように思うかもしれないが
人間の腸の中でそれは生成されるというのだから驚きだ。


こいつが月面人の間でパンデミックを起こせば、容易に月面人を制圧することができる。
たとえばベロ毒素を出すという有名な病原性大腸菌が生まれたのは、つい最近のことだ。
これも人間が大陸を渡った結果、おなかの中で複数の菌が機能融合を果たしたからに
他ならないという。


ちなみに顕界でいくつかの肉を生で食べているというと多くの住民並びに妖怪からも
驚かれる。妖怪たちも人間の姿を得ると、やっぱり火を通すようだ。
そのほうがリスクが小さいからである。
幻想郷でも似たような現象は起こるのだ。誠に面倒な話である。


したがって幻想の世界に行ったとき、外の世界の人間は容易に幻想の世界の住民に
接触できないのが普通である。 最近、外の世界の人間が食われることが減ったという
報告もあるが、実のところこうした事情があるからである。