■月 ●日  No5038

「あのう、有江さん、彼にあることないこと吹き込むやめてもらえませんかね。」
 助けたはずのおっさんに突っかかれた私はそう突っ込まざるを得なかった。
 はっきり言って納得いかない。
 
「おい、俺の躰にいったい何をした?」
「損傷が多いから蘇生しました」

 せっかく助けたのにこれだから困る。もちろん種明かしをする義務はない。
 私がやったことは単純だ。ことキレる一歩前だった探偵を意識不明であることを
 いいことに幻想郷に運んだ。ここからは自分のホームグラウンドである。
 あとは彼がやってきそうな場所に張り込んで当人を回収するのである。
 通常この手法は、沢山の亡者がいる中有の道ではかなり至難である。
 そこは私のノウハウだ。

「いや、どうみてもリザレクションでしょ」
 有江さんが目を細めながら突っ込んできた。
 そうともいうかもしれない。
「あなた、自分の非常識さを認識したほうがいいんじゃないかしら。」
「いや、ほら自分の病気とかも治ったしべつにいいんじゃないの?」
「私のアイデンティティを奪うな」

 まあ言いたいことはなんとなくわかると思うがそんなことを言われたら
 私はいったいなんなんだと思う。大体くたばる可能性がなくなれば
 自分を証明する手段はもっと観念的なものにシフトすればいいのだ。
 身分証明とか、そっち方面で自分を証明していくといい。
 対人関係とかもそうだろう。

「いや、その前にいうことはあるのではないか」
「あ、そうだったな。 恩に着る」
 ここでさすがの相手も、自分が助けられたことを思い出して謝罪してきた。 
 まあ、相手が悪すぎたし、今回のインシデントも調査士を助けたということで
 チャラになったところがある。

「有江さん人が悪いなあ。」
「いつものことでしょ」
「とりあえず報告をもらおうか」

 本件は確かにちょっと相手が悪かった。私が絡まなければ彼も助からなかった。
 本当の意味で助かったかは微妙なことだが、一つ言えるのは相手はかなり危ない
 連中であるということである。 
 そして、本異変がかなり危険な事態になっていることを今更ながら認識するに
 至ったのである。